数少ない椅子職人として、秋田民の思い入れある椅子の修理や製作を承る「ISUKA」代表の加藤さんにお会いしてきました。あまりにも和やかな雰囲気で弾んだ会話の中で、特に心に響いたエピソードをご紹介させてください。
「自宅として築50年の空き家を購入したんです」
この話を聞いた私は、恥ずかしながら耐久性や価値など、外面的なことばかり質問していた。
だけど、彼の話を聞いてハッと気付かされたのです。
例えば一つの家が100年受け継がれてきたのだとしたら、その裏にはその分だけストーリーがある。それが椅子なら、長い年月をかけて色んな人が腰掛け、笑い合い、時には涙したのだろう。誰かが手入れをしてようやく今ここにたどり着いたモノ……それがどんなに尊いことかと。
「物には魂が宿る」聞き慣れたフレーズが加藤さんのおかげで腑に落ちて、古びた椅子を感慨深く眺めている自分がいたのです。
椅子職人といいながら、椅子へのこだわりは全くないという加藤さん。椅子は一つの入り口でしかなく、それをきっかけに似た感性をもつ職人さんとつながったりと、世界を広げたいんだそうです。
「じゃあ今後やってみたいことが他にあるんですか?」と聞くと、
「いや、特にないです」という返事に拍子抜けしたのは最初だけ。
"今あるものを大切にしたい"という想いがそこに込められていたからです。
例えば、顔見知りの職人さんたちで一緒に何かを作るとか、今あるものを組み合わせて何かするのが好き。
しいていうなら、場所作りがしたい。
なぜなら、モノの居場所ができるから。
モノはもう既にある。場所さえあれば輝けるモノが、そこらじゅうにあふれている―。
彼には揺るぎない信念があるはずなのに、肩肘張らない雰囲気がなんとも不思議で魅力的。帰る支度をして靴を履いたのに話が止まらず、中々その場を去れなかったのは、そんな人柄のおかげですね。古びた椅子に腰掛け、和やかにほほ笑む姿が、とても絵になっていた。
ご縁をつなぐ
「秋田のすてきな人」リレー
シミケアサロン「tumugi堂」
オーナー 奈良佑貴さん
@tsumugidou
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椅子修理「ISUKA」
代表 加藤直哉さん
@isuka_na
5月上旬新たに「雲の巣」という店舗をオープン予定なんだそう。店頭には加藤さんの手でリメイクされた椅子が並びます。すてきな出会いを求めて、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。